短編プログラム1(72分/9作品)

宇宙の記憶

宇宙は広々とした時間であり、終わりのない空間だ。そして、道行く子どもからお年寄りまでの一人一人の胸の中、小さな部屋の中、大きな世界の中、それぞれの内部に、自分だけの宇宙が存在する。その中に住んでいる私たちは、みな、宇宙の記憶なのだ。


「ピアノと子ども」
피아노와 아이/Piano and Kid
2016/06:26/イ・ヒョンミ 이현미
ドローイング、2D

ピアノの練習が嫌いになった子どもにとっては、ピアノは自分を食べようとするモンスターのように見えるだろう。だが、ピアノは逃げる子どもを追いかけまわす。以前のように、一緒に楽しく遊んでほしいだけなのだが……。

Director's note
これは、2013年に描いた「ピアノと少年」という連作イラストレーションを、アニメーションにした作品である。芸術や創作に携わる人なら一度は感じるであろう、恋人同士の感情変化にも似た愛着、そして心情の変化を表現してみたかった。
KIAFA特別賞


「ウォークマン」
워크맨/The Walkman
2015/11:51/キム・ヘリョン 김혜련
ドローイング

団地の中の公園に、今日も90歳を超えた老人がやってきた。公園では彼よりも若い年寄りたちが将棋を打っているが、世代の違う彼はその輪に入れない。しばらく眺めていた彼は傍のベンチに腰掛けるが、そこには”ウォークマン”が置き忘れられていた。彼はためらいつつもイヤホンを耳につけ、”逆回転”のボタンを押す。すると、彼の動きが逆回転になり、その人生と世界が巻き戻されていく。

Director's note
急変する時代を生きてきた、1926年に韓国・安養で生まれた老人の語りを通じて、身体と世界の関係を表現した作品である。主人公の老人は、小市民の人生を代弁している人物だ。日本の教育を受け、解放後は朝鮮戦争で戦い、急速な経済成長の時代を無抵抗に受け入れなければならなかった彼は、世界を構成するもっとも小さな単位としての人生を生きた。老人の記憶の中の戦争と貧困、日本統治時代の悲しみと苦痛は、私的な追憶と混ざりあい、歴史の地理的な基盤とともにアニメーションへと具体化されていく。 オイルパステルのぶ厚い質感を感じられる動画は、デジタル製作の効率性から距離を置き、一枚一枚を手で描くアナログ工程を経ている。時間性を内包するその過程自体が、物語の中の過去と共鳴するためのプロセスでもある。 物語は、団体写真を撮る場面で終わる。写真を撮るとその画面がかすれ、そこにイメージが重なっていく。記憶は霞んでいき、美化され、編集され、曖昧さを増していく。


「O」
2015/03:31/エリック・オー 오수형
Korea/USA
2D

Oは、混沌と規則が存在する時間の流れを、独創的な表現力とあふれ出る躍動感として盛り込んだ、3分30秒のアニメーションである。

Director's note
Oは、アーティストグループBANAと共同で制作した初のプロジェクトである。エリック・オー特有の感覚的なアニメーションと、BANAの所属アーティストFRNKの実験的なサウンドが絶妙な調和を成した、幻想的な雰囲気の映像作品である。


「床に耳をすまして」
바닥을 듣는 아이/Sleep Alone 
2016/08:07/チェ・ソヒョン 최소형
2D、カットアウト

5才のウヌも、そして母親も、1歳ずつ成長した。新たな住まいで二人の成長期がまた始まる。もう一人で寝なければならないウヌ。 しかし母親の願いとは裏腹に、ウヌは眠らずしきりにおかしな行動を見せ始める。耳がよく聞こえないウヌも、他の子どもたちのように”一人で寝る”ことができるだろうか?

Director's note
おばあさんに子どもを預けても、保育施設に頼っても、母親にとって子育ての問題は大きな苦痛である。目をかけてあげられない罪悪感。しかもそんな気持ちなどつゆ知らずに行動する子どもに神経質になり、ますます大きな罪悪感を背負って生きていく。家族と子どものためだったはずなのに、母親は子どもを自分の身からだんだん遠ざけなければならなかった。片耳で床の音を聴いてウヌが探していたのは、母親の懐で感じていた「安定感」だ。床の音を聴き、眠りにつかず、大声を出す……。母親の言葉に反抗しながら、もう少し母親の懐の中にいたいという「信号」を送っているのだ。そんな子どもと母親との、ふれあいをめぐる物語である。


「鹿の花」
사슴꽃/Deer Flower
2015/07:34/キム・ガンミン 김강민
Korea/USA
ストップモーション

1992年の夏。小学生のトゥジュンは、親と一緒に郊外の農場へと向かう。親たちは、その農場で採れる高価で珍奇なスタミナ食をトゥジュンに食べさせ、息子を健康にしたかったのだ。ところが、親の希望とは裏腹に、トゥジュンは副作用に苦しみだす。

Director's note
自分の個人的な経験を、個性的なスタイルで生まれ変わらせて観客と共有するために、この作品を作った。
一般優秀賞


「死について」
죽음에 대하여/About Death
2016/07:25/イ・ウンジェ 이은재
2D

サバを焼いて食べようとする主人公。 ふと、まな板の上のサバの死に実感がわかないことに気づく。その死は果たして、当たり前のことなのだろうか?

Director's note
家族の訃報をきっかけに、死への洞察と、そこから一歩進んで、あらゆる生命は大切だというメッセージを込めようと思った。その生命こそ、まな板の上のサバなのかもしれない。


「空き部屋」
빈 방/The Empty
2016/09:27/チョン・ダヒ 정다희
Korea/France
ドローイング、2D

ある女性の部屋。記憶たちが埃のように蓄積しては消えていく。男がその部屋で時間を過ごす。その女性にまつわる記憶をもとに、無益なちょっとしたゲームをしながら。

Director's note
「部屋」は誰かの人生の痕跡をしまい込んでいる。その空間、壁、ドア、窓、物などに残された痕跡を通して、流れる時間の中で生きていく人間という存在の条件と喪失を語ろうと思った。
審査委員特別賞


「OVERLOAD」
과부하
2015/05:03/カン・スヒョン 강수현
セル、2D

不意の事故で死んだ恋人をしのぶ男。宇宙で長い時間を過ごし、ついに地球に帰る日、理由を説明できないような非現実的な事件をきっかけに、過去を振り返っていく。

Director's note
Overload [かふか 過負荷]
1.仕事を数多く引き受け過ぎた状態
2.機器や装置が扱うことができる正常値を超えた負荷
オーバーロードは「精神的に過負荷がかかった状態で、記憶というのはどのくらい正確でありうるか」と「過去の出来事は常に美化されて記憶される」という二つの文章と、物体が粘液へと変わっていく一つのイメージによって始まった物語である。
音楽サウンド賞


「父の部屋」
아버지의 방/MY FATHER'S ROOM
2016/08:16/チャン・ナリ 장나리
2D

彼女は幼いころから、父親の虐待を受けていた。父親と離れて暮らすうち、彼女は幼いころの傷や父親への憎しみをも、少しずつ忘れていく。しかしある日、思いがけず、家族に見捨てられた父親との時間を思い出し、混乱していく。

Director's note
家族とは、時に他人よりも厄介な関係である。にも関わらず、感情的な絆を絶つのは容易ではない。だからこそ、憎み、憐れむしかない。互いに傷つけ合い、癒えない傷を抱きながら、どこか欠落した人生を生きていくのだ。
大賞・観客賞